かざはな?ふっこし?はあて

冬の季節風が強い日に、冬晴れの群馬県内でハラハラと雪が舞うことがあります。同じ群馬県内でも地域によって「かざはな(風花)」「ふっこし(吹越)」「はあて(疾風?)」 と名称が違っているようです。冬型気圧配置で、特に風が強いときに、日本海側の雪雲の一部が、関東平野にまで流れ込んでくるのが原因です。「はあて」については、その語源が明らかではありませんが、「疾風(はやて)」のなまりではないかという説があります。とすると、晴天時の降雪についての表現には、三者とも強風の意味が込められており、原因を的確につかんだ言葉であるといえます。
夕刻の雪雲の写真です。群馬県高崎市(旧榛名町)で撮影しました。雲の動きは概ね北西から南東方向で、季節風の風向きとあっています。雲から黒い筋が垂れており、この雪片が地上に到達すると、青空から雪が落ちてきた感じになるわけです。おそらくこの地域では「はあて」と呼ばれているとみられます。なのでこの雲を「はあて雲」と名づけましょうか。雲の下にある丘陵の向こう側は安中市になります。

雪雲の集団越境

センター試験寒波(2017年)による雪雲の”越境”の様子です。寒気の吹き出しが強かったために、脊梁山脈を越えて、団塊状の雪雲が次々と流れ込んできました。群馬県内ではいたるところで、「ふっこし」や「かざはな」「はあて」がみられたのではないでしょうか。今回の雪雲の”集団越境”は珍しいのではないかと思います。前橋市では2cmの積雪となりました。一時は黒い雲に空を覆われ、「かざはな」という情緒的な雰囲気ではなかったかもしれません。(高解像度レーダー画像:気象庁)

晴天時降雪の表現(図中にマウスを重ねると地形が重なります)

 「かざはな」「ふっこし」「はあて」について、地域による表現の違いを調べた方がいます。群馬県在住の鈴木英樹先生(医学博士)です。鈴木先生は、地理学者ではありませんが、インターネット掲示板を使って、晴天時降雪の表現の情報を集め、地図上にプロットしました(この時点でまさに地理学ですが...)。許可を得て、市町村名を施したり、地形の様子と対比できるよう地図を加工しました。
 「かざはな」は東毛の太田市を中心に、桐生市(桐生地区)、伊勢崎市、高崎市南部、前橋市南部などで使われる表現です。群馬県ではもっとも使用者が多いとみられ、埼玉県や栃木県でも使われいるようです。
 「ふっこし」は、みどり市や桐生市(黒保根地区)、前橋市北部、渋川市東部、昭和村など、赤城山麓で使われる表現です。利根川上流域や吾妻川流域でも「ふっこし」が主流です。
 「はあて」は、高崎市西部と安中市、富岡市などの西毛地区で使われています。前掲の夕刻写真は「はあて」エリアで撮影したことになります。
 分布を詳しくみていくと、「はあて」エリアと「ふっこし」エリアは、ほとんど重なりません。両エリアの人は、高校進学や県内の転勤、引っ越しなどで他方のエリアに行った時、自身の表現が普遍的でなかったことに気が付き、カルチャーショックを受けることがあるようです。一方で、「かさはな」は、他のエリアに入り込んでいる分布となっています。「かざはな」は、天気予報の解説などでもよく聞かれることから、一般化がすすんでいて、「はあて」「ふっこし」エリアでもある程度は認知されているようです。
 ここからは妄想になりますが、かつて上州では、ほぼ利根川を境界として、西は「はあて」、東は「ふっこし」が用いられていたのかもしれません。低地の東毛から「かざはな」徐々に勢力を広げてきた結果であると考えるのは乱暴でしょうか?「ふっこし」エリアは、「かざはな」に徐々に侵略されてきているものの、「はあて」エリアは、烏川付近の防衛線で何とか侵略を食い止めているようにも見えます。
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